統合報告書 2026

Our Value Creation「精緻な技術」と「現場力」で進化し続ける、松山工場のモノづくり ―プロセス技術と垂直統合モデルが支える価値創造の源泉とは―

PHCグループが開発・製造・販売する「血糖測定システム」は、現在、90以上の国と地域で約1,000万人の患者さんに使用いただいています。この血糖測定システムの要となる「血糖測定用センサ(以下、血糖センサ)」を開発・製造している松山工場(愛媛県東温市)が持つ高い競争力とは、一体何なのか。なぜ、高品質・高精度な製品を、安定的かつ継続的に患者さんへ届けられるのか。背景には、単一の技術や数値だけでは表れにくい現場の知見と、それを再現可能な技術力へと磨き上げる不断の改善、妥協を許さない品質思想がありました。本特集では、血糖センサの製造で培った技術と現場力を次世代へ受け継ぎながら、PHCグループの競争力と価値創造をリードし支え続ける、松山工場の舞台裏に迫ります。

松山地区 松山工場
松山工場で開発・製造している製品の歴史
松山工場で開発・製造している製品の歴史

現場に入り、現物を手に取り、自分たちの目で現実を見て問題を確認する「五ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)」を拠り所に、誤差やばらつきの原因を一つひとつ分解・解消。上流工程でばらつきを抑え込む思想のもと、試作段階で、約60あった製造工程を第1世代ですでに20数工程へ集約し、 1991年に「血糖測定用センサ(第1世代)」の製品化に結び付けました。その後も進化は続き、測定時間は60秒から5秒へ短縮。製造にかかるリードタイムも、最新の第3世代では、第1世代から99%短縮する等、飛躍的に改善しています。

1.競争力の原点:お客さま視点と妥協を許さない品質思想

1.競争力の原点:お客さま視点と妥協を許さない品質思想

PHCグループの血糖センサ事業は、後発参入でありながら現在世界シェア3位と、世界的な成功を収めています。その背景には、強い危機感から生まれた組織の一体感と、徹底した「お客さま視点」に基づく妥協を許さない品質思想がありました。1980年代後半、当社の前身である松下寿電子工業時代の松山事業部は既存事業の停滞により「倒産事業部」と呼ばれるほどの危機にありましたが、この窮地が「自分たちの手で新事業を立ち上げる」という強い執念を生みだしました。さらに、松下グループ伝統の「社員稼業」※1の精神のもと、開発・製造・品質保証などの各部門がセクショナリズムを超えて連携。トップの迅速な決断がこれを後押しし、他社が実用化困難とした技術をヒット製品へと昇華させたのです。この危機感と想い、そして部門を超えた一体感こそが、後発からの逆転劇を支えた最大の要因です。

開発の出発点は「患者さんが日常的に使い続けられる製品」の追求でした。当初は製造コストの高さが課題でしたが、現場での工程分析を徹底し、上流工程でばらつきを抑え込むことで工程数を3分の1に削減。高いコスト障壁も突破し、患者さんの経済的負担を抑えた持続可能な製品の提供を実現しました。

また、市場のスペック競争よりも患者さんの安全性を最優先しました。測定時間などの利便性が重視される中、命に関わる「偽高値」のリスク※2を根本から排除するため、当時世の中の製品に使用されていなかった酵素をベンダーと共同で開発し、技術的な壁を乗り越えて新たなセンサの製造を実現。この「安全への一切の妥協を許さない」姿勢は、ヘルスケア企業としての誠実な価値観を象徴する出来事となりました。

この信頼を支えるのが「ゼロディフェクト(製品の欠陥や不良品を事後検査で見つけるのではなく、そもそも不良品を作らないという考え方)」への徹底したこだわりです。1セル単位での品質保証を徹底し、五ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)に基づいて課題を解決してきました。また、患者さんのさまざまな使い方が測定値に影響を与えるため、米国などでユーザースタディを実施し、再現可能な技術に変えていくことで、誰がどこで使っても正確な測定値が得られる安心感を実現しています。こうした「患者さんの命を守る」という揺るぎない使命感と、泥臭い現場観察、そして徹底した数値管理の積み重ねによって、ゼロディフェクトという理想を体現しているのです。

  • ※1社員も一つの独立した職業(稼業)として捉え、会社に依存するだけでなく、自らの仕事に責任と誇りを持って価値を生み出すこと。松下幸之助著『社員稼業 —仕事のコツ・人生の味—』(PHP研究所)より引用。
  • ※2実際には正常であるにもかかわらず、検査機器のエラーや薬の成分の干渉などにより、見かけ上の数値が高く出てしまう現象。この誤った数値に基づいて不適切な治療(インスリンの過剰投与など)を行うと、命に関わる重篤な事態を招く恐れがある。

2.究極の競争優位 ~垂直統合モデル(強みの源泉)とは~

松山工場の強みは、材料のメーカーとの共同開発、選定、調達、加工から試薬の塗布・乾燥、貼り合わせ、カット、検査、パッケージングまでを一貫して担う垂直統合型のモノづくりにあります。この垂直統合モデルの中身を、次の3つの強みにわけてご紹介します。

強み①:「一気通貫」の仕組みと「プロセス技術部門」の存在

松山工場の1つ目の強みとして「一気通貫」の仕組みと「プロセス技術部門」の存在があります。材料の開発・調達からパッケージングまでを自社で完結する「一気通貫」の構築により、外部委託では捉えにくい材料状態や工程条件の変化も一元管理でき、品質に影響する要因を上流から把握し、制御することが可能です。

また、この体制の中核を担うのが、研究開発と量産工程の橋渡し役である「プロセス技術部門」です。開発・製造・品質管理の各部門と密接に連携し、研究段階で実現した性能を量産でも安定して再現することで、高精度な血糖センサの継続的な安定生産を支えています。

① 一気通貫の価値創造

強み②:模倣困難な競争優位を築くブラックボックス戦略

松山工場では、特許として公開する技術と、製造工程内に秘匿するノウハウを戦略的に使い分ける「ブラックボックス戦略」を採用しています。完成品からは特定しにくい工程条件を、あえて特許を取らず、非公開にし、模倣を困難にするという参入障壁を構築しています。この戦略により、競合他社に対する技術的優位性を維持し、血糖センサ事業における競争優位を確立しています。さらに、この伝統の考え方を守り続けることで他の商材へ展開し、グループ全体の将来への広がりの下支えとなっています。

② ブラックボックス戦略

強み③:コストを抑えた高精度なモノづくり

高精度な医療機器を、コストを抑え、患者さんが継続利用しやすい価格で提供する。この両立を支えるのが、松山工場の垂直統合のモノづくりであり、強みの1つです。製品の部材をかつては外部から購入していましたが、例えば、外部から100円で買った部材を使えば、その時点で100円以下の製品はつくれません。そこで、原材料を購入し、部材の製造を自社で行うことで、外部に支払っていた付加価値分を自社内に取り込み、コストを抑えることができます。

このように、外部委託に伴うコストを抑えながら、品質に影響する要因も上流から制御し、ばらつきやロスを工程内で抑え込むこの垂直統合の仕組みが、安定した品質とコスト競争力を同時に実現し、松山工場の収益性を支えています。

コストを抑えた高精度なモノづくりのイメージ

松山工場では、材料表面の制御、試薬の塗布・乾燥、貼り合わせ、カット、検査、パッケージングに至るまで工程条件を作り込むことで、高精度な血糖センサを安定して量産しています。血糖センサで培ったプロセス技術は、現在ではPOC生化学分析装置や細胞・遺伝子治療分野向けの製品にも応用され、松山工場の競争基盤となっています。

3.「精緻な技術」 具体例4つのご紹介

材料開発へのこだわり

モノづくりの川上にあたる材料開発において、血液中のグルコースと反応する酵素の開発・選定は高い測定精度を実現する上で非常に重要です。2000年代初頭の血糖センサ開発時、市場は測定時間のスピード競争の最中にありました。一方で、当時採用していた酵素が、ある特定の輸液中のマルトースと反応することで血中グルコースが「偽高値」を表示し、市場では患者さんの命に関わる重大な事故が報告されるケースもあり、米国FDAなどからその危険性が指摘されていました。この問題を解決すべく「安全への一切の妥協を許さない」使命感を背負い、当時は昼夜問わない開発体制のもと、当時世の中の製品に使用されていなかった酵素を搭載した血糖センサを酵素メーカーと共同で開発。測定時間短縮など、さらに磨き上げられた次世代センサを実現することができました。「患者さんの命を守る」という当時の想いは、グローバルヘルスケア企業としての誠実な価値観を象徴する出来事となりました。

材料開発へのこだわりのイメージ

微細なばらつきを抑えるRoll-to-Roll技術

血糖センサは、フィルム状の基材に電極や試薬、カバー材を積層・加工してつくられます。松山工場では、このフィルム材料をロール状のまま搬送し、試薬の塗布・乾燥、貼り合わせ、カットを連続的に行うRoll-to-Roll技術を活用しています。フィルム材料は、同じロールでも最初か最後か、中央か端かにより、ひずみや反りの特性が変わります。精密な医療用センサの製造では、こういったわずかな違いが、試薬の広がり方や乾燥後の結晶状態、血液が入った際の溶解性に影響し、測定精度に直結します。

そこで松山工場では、高速カメラや評価試験、シミュレーションを用いてこうした変化を可視化・解析し、温度、湿度、風の流れ、材料表面の状態を最適化しています。試薬の広がり方や乾燥後の結晶状態、血液が入った際の溶解性を均質に保つことで、量産時の測定精度を安定させています。この精密な連続加工技術が、高精度な血糖センサの量産を支えています。

微細なばらつきを抑えるRoll-to-Roll技術のイメージ

予兆管理による貼り合わせ不良ゼロへの挑戦

血糖センサの製造では、フィルム状の基材にカバー材を貼り合わせる工程があります。ローラーで熱と圧力を加え、血液が流れる微細な空間を保ちながら、電極や試薬が正しく機能する構造を形成する重要な工程です。この工程では、数年ごとにローラーの劣化を原因とする貼り合わせ異常が発生していました。深刻だったのは、異常に気づいて設備を停止した時点では、すでに大量の不具合品が生産されており、それらはすべて廃棄せざるを得なかったことです。

そこで我々は、「異常発生後の対応」から「異常の予兆を捉える予兆管理」へと発想を転換しました。まず、外部専門家から学びながら知見を蓄積し、さらに異常を再現できる試験機を自ら製作して、予兆検出に有効なパラメータの検証を繰り返しました。また、大学との共同研究を通じて試行錯誤を重ね、正常時と異常時の膨大なデータを学習させることで、通常とは異なる変化を検知する品質工学を活用した仕組みを構築しました。

予兆管理による貼り合わせ不良ゼロへの挑戦のイメージ

導入までには数年を要しましたが、その結果、ローラー劣化を原因とする不具合品の発生を事前に察知できるようになり、以降はこの不具合からの廃棄をゼロに抑えることができています。

地道な実験が生んだ劇的な工程時間の短縮

血糖センサでは、血糖測定用に微量の試薬をセンサ上に塗布し、乾燥させます。乾燥状態により試薬の血液への溶け方が変わり、測定精度に大きく影響します。一定の温度、湿度、風速を保ち、ゆっくり乾燥させることで、均質な結晶状態をつくり、精度を保つと考えられていました。しかし、この乾燥工程は生産効率上のネックでもありました。センサ全体は高速で流れていきますが、乾燥工程だけは時間を要します。品質を維持・改善しながら、この工程をいかに短くするか。それが生産性向上における大きな課題でした。

地道な実験が生んだ劇的な工程時間の短縮のイメージ

そこで取り組んだのが、乾燥状態の見える化と数値化です。温度、湿度、風速、乾燥時間等のさまざまな条件を一つひとつ変え、試薬がどのように変化するかを高速度カメラで撮影・解析し、最適な条件を追求しました。その結果、試薬を最適な状態で乾燥させるには、試薬が固まる瞬間の条件が重要であることが判明しました。となれば、全体をゆっくり乾燥させる必要はなく、前半は素早く水分を飛ばし、試薬を固めるポイントだけ均質にゆっくり乾かす。この方法により、従来よりも劇的に乾燥工程を短くすることができました。既存のやり方に捉われず、時間がかかっても地道に最適な方法を追求する― 生産性は大幅に向上し、大きな原価低減を成し遂げることができました。

4.精緻な技術を創出する組織の舞台裏

モノづくり力が支える、高品質と低コストの両立「垂直統合モデル」

血糖センサ事業は、かつて社内で「倒産事業部」と揶揄されるほど厳しい環境から始まりました。製造価格を劇的に下げるという目標に対し、他社が諦めた技術に我々はすがる思いで挑戦したのです。当時の松下寿電子工業は、松下グループの中で、モノづくりに特化した会社として、北米向け事業などを担っていました。創業以来、開発力、製造力、生産技術力を強みに、オンリーワン、ナンバーワンの製品づくりにこだわってきた会社です。「モノづくり力」への絶対的な自信は大きなものでした。

その信念を技術的な突破口へと変えたのが、「垂直統合モデル」の確立です。通常は外部調達に頼る部材を自社で内製化するという、困難な判断でした。しかしこれが、外部依存による品質リスクを排除し、全プロセスを自社でコントロールすることを可能にしました。結果として、ばらつきを抑え込みながら、圧倒的な低コストと高品質を両立させることができたのです。「患者さんの命を守る」という強い信念を、具体的な技術選択と組織行動に転換してきたこと。それこそが、松山工場の競争力が30年以上にわたって維持されてきた真の理由だと考えています。

開発

徳永 博之

徳永 博之
PHC株式会社 取締役

こうした30年以上にわたる血糖センサ開発で培った技術は、現在、細胞・遺伝子治療分野向けのライブセル代謝分析装置「LiCellMo™」など、最先端のライフサイエンス領域へと受け継がれ、新たな価値を生み出しています。

実験室と製造現場をつなぐプロセス技術

「プロセス技術」とは、あまり聞き馴染みのない部門名だと思います。その役割は、実験や設計等の開発と、製造をつなぐことです。実験室で得られたデータを製造現場で再現できないとき、その原因を追究します。乾燥の状態、材料の扱い、温度、湿度、設備の挙動など、目に見えにくい事象を丹念に調べ、化学反応や材料特性を理解しながら、最終的には理想的な条件を設備や工程条件に落とし込む必要があります。これは、何度も何度も評価し、データを取り、原因を探る泥臭い作業の連続です。しかし、その積み重ねがなければ、量産で均質なセンサをつくることはできません。

また、設計、生産技術、製造、品質保証など、他の部署と距離が近く、セクショナリズムの少ない組織文化だったことも幸いしました。互いの役割をリスペクトしながらも、時に喧々諤々とぶつかりあい、実験室の技術を量産品質へと磨き上げるという同じゴールに向かって改善してきました。その一体感が、松山工場の競争力を支える原動力だと考えています。

プロセス技術

高橋 浩二

高橋 浩二
PHC株式会社 松山地区
ライフサイエンス事業部
共通職能部門
モノづくり推進管理部 部長

設計の想いを形にし、24時間365日の安定稼働を支える

生産技術は、設計開発者の想いを量産現場で確実に形にし、プロセス技術による緻密なバックデータ、品質管理へのこだわり、そしてモノづくりを担う現場力を結び付ける部門です。製品を24時間365日、安定した品質で生産し続けるため、必要な工法技術の開発から、生産設備の構想設計、導入、立ち上げ、設備や関連部品のメンテナンス・改善まで幅広く担当しています。

更なる品質の安定化だけでなく、さまざまな生産性向上への取り組みによる原価低減、さらには垂直統合モデルの実現に向け、困難な工法、設備、量産工程の確立にも挑戦してきました。その過程では、設計、プロセス技術、製造、品質管理など関係部門と密に連携し、机上の検討にとどまらず、現場で検証し、改善を重ねることを実践してきました。環境変化や新たな要求に柔軟に対応しながら、より安全で効率的な生産体制を築き、改善と発展に繋がる更なる進化に向けて歩みを止めず、挑戦し続ける行動力こそが原点であり重要であると考えています。

生産技術

二宮 英次

二宮 英次
(元生産技術部長)
PHC株式会社 脇町地区
ライフサイエンス事業部
バイオメディカ事業グループ
四国工場工場長

信頼を築く品質への取り組み

当グループでは、お客さまに安心して製品をご使用いただくために、日々品質向上に取り組んでいます。

品質管理部門は、製品の品質確認だけでなく、部品管理や製造工程の管理、設計段階での品質づくり、市場での品質情報の把握まで、幅広い役割を担っています。また、販売会社や取引先の窓口となり、お客さまから寄せられるご意見や品質に関する情報を受け取り、関係部門と連携しながら改善活動につなげています。

品質は、一つの取り組みだけで守れるものではありません。日々の気づきや情報共有を積み重ねることで、より良い品質が育まれていきます。

そのため当グループでは、製造、製造技術、品質管理、技術部門のメンバーが参加する「品質決裁会議」を毎日開催しています。材料の変更や設備の状態など、品質に影響を与える可能性のある情報を共有し、事前に注意点を確認しています。

品質管理

吉岡 利治

吉岡 利治
PHC株式会社 松山地区
ダイアベティスグループ
品質保証室 室長

問題が起きてから対応するのではなく、「起こさないためにはどうするか」を考えながら日々取り組むことが、安定した品質の維持につながっています。

これからも、お客さまやお取引先をはじめとする皆さまから信頼していただける製品とサービスをお届けできるよう、品質を大切にしたモノづくりを続けてまいります。

5.松山から全国・世界へ。そして次世代へ。
受け継がれる「精緻な技術」

異文化を尊重し合う技術移転

松山工場で培ったモノづくりの力は、既に他の生産拠点にも展開されています。例えば、PHC株式会社の群馬工場では、生産性向上やQCサークル活動の浸透などに、松山で培った改善の考え方が活かされています。海外拠点においても、松山で経験を積んだ人財が関わり、モノづくりの考え方を伝えています。また、2025年度からは血糖センサのアルジェリアでの生産を開始しています。技術移転は、移転元が主導するとうまくいきません。移転先の現場は我々が持っていない素晴らしいものを持っている前提で、歩み寄りと対話を重ね、自発的な改善を引き出しています。松山から世界へ、最適化されたモノづくりのベストプラクティスが広がっています。

海外拠点のメンバーによる松山工場視察の様子のイメージ
海外拠点のメンバーによる松山工場視察の様子

職人技を「形」に残し、次世代へ技術を最短で継承する

今後のモノづくりを支えるうえで、人財育成は非常に重要です。当社が直面する大きな課題は、長年モノづくりを支えてきた熟練技術者のノウハウを、いかに短期間で次世代へ継承するかです。かつてのような「先輩の背中を見て学ぶ」職人気質の指導だけでは、技術は継承できません。職人的なノウハウのマニュアル化、見える化を徹底しています。例えば過去の失敗と成功、改善の事例をパネルにして工場内に掲示するなど、これまで蓄積してきた技術や考え方を誰もが理解できる「形」に残す工夫を重ねています。

熟練技術者を講師に迎えた研修の様子のイメージ
熟練技術者を講師に迎えた研修の様子
工場内の廊下には、過去の失敗と成功、改善事例をパネルにて掲示のイメージ
工場内の廊下には、過去の失敗と成功、改善事例をパネルにて掲示

6.未来に向けたメッセージ

基盤事業としての進化と、事業の新たな地平を拓く

私たちは世界トップクラスの品質を持つ血糖センサを製造してきました。今後はPHCグループ全体を支えるこの基盤事業の収益性をさらに高めるため、サプライチェーン全体の最適化や、パッケージング工程の内製化など、徹底的な合理化を進めます。内製化に関しては、松山のメンバーが実際に現場を確認し、松山工場で培ったモノづくり力とプロセス設計力を適用し、大きなコストダウンを実現した事例も出てきています。愚直に改善を重ねることで、事業全体の収益性を高めていく考えです。

今後については、糖尿病マネジメントに関わる新たな商材の可能性も見極めていく必要があります。血糖測定にとどまらず、糖尿病患者さんの生活や治療に貢献できる商品を生み出すことができれば、事業としてもう一段の成長が期待できます。2026年度から事業の名称をBGM事業部から糖尿病マネジメント事業部に変更していますが、既存の血糖測定だけにとどまらない事業展開への意図があります。当社には先人たちが積み重ねてきた歴史、技術、能力があります。そして、我々にはそれを継承し、さらに発展させていく責任があります。基盤事業としてグループに貢献すると共に、新たな挑戦を続け、次の成長機会を作っていきたいと思います。

伊藤 佳洋

伊藤 佳洋
PHC株式会社 松山地区
ダイアベティスグループ
グループ長

一気通貫のモノづくり力を継承し、全員参加で未来を創る

松山工場で培われてきたモノづくり力は、血糖センサ事業を支える基盤であると同時に、PHCグループの未来に向けた資産です。垂直統合による一気通貫のモノづくり、プロセス設計力、生産技術、品質管理、改善活動、ブラックボックス化されたノウハウ、人財の経験。それらが連携して、現在の強みを形づくっています。過去の技術や歴史は、守るだけでは価値になりません。継承し、改善し、必要に応じて変えながら、次の成長へつなげていくことが重要です。ただし、工場運営において、何よりも優先されるのは安全です。安全は絶対に譲れないものです。新入社員にも、最初に必ず安全の重要性を伝えています。従業員がけがをすることは、絶対にあってはならない。リスクが見えているなら放置せず、必ずアラームを上げ、対処することが求められます。また、人を大切にすることです。仕事は一人でするものではなく、チームでするものです。相手を尊重し、チームメンバーを大切にすることを、工場の中で繰り返し伝えています。

今後は、ここ松山工場のモノづくり力を、世界の拠点へさらに広げていくことが求められます。単に設備や手法を移すのではなく、改善の考え方、品質への姿勢、人財育成の仕組みを含めて横展開し、グループのモノづくりを進化させ続けたいと思います。

入江 篤

入江 篤
PHC株式会社 松山地区
ダイアベティスグループ
ダイアベティス工場 工場長