「この領域にPHCグループあり」を目指して

- PHCホールディングス株式会社
代表取締役社長
最高経営責任者(CEO)
1. 「One PHC」を、理念から実践へ
2025年度は、2024年11月に新たに公表したビジョンの実現に向けて「中期経営計画2027」を、実践へ移す1年でした。中計初年度として、約束したことを一つひとつ実行するとともに、「One PHC」というスローガンが「宣言」から「実践」へと動き始めたことに、確実な手応えを感じています。
私は2024年4月に当社グループのCEOに就任して以来、経営理念、ビジョン、価値観、そして「One PHC」の浸透に力を注いできました。PHCグループは、M&Aや事業統合を通じて成長した、日本発のグローバルヘルスケア企業です。それぞれの事業会社が異なる文化やバックグラウンド、事業特性を持ち、それらを大切にしながら成長してきたことは、当社グループの大きな財産です。一方で、個社ごとの際立った特長ゆえ、PHCグループ全体としてどのような会社を目指すのかが見えにくいという課題もありました。
私は、PHCグループとしての立ち位置を明確に定義し、事業領域や地域を越えて多様な知見・資源を結集する共創基盤の構築に取り組んできました。
当社グループは、医療・ヘルスケア分野における「モニタリング(予防・予後・管理)」「検査/診断/治療」「研究開発」の各領域で、多くのお客さまやエンドユーザーの方々とのさまざまなタッチポイントを持っています。これらを有機的につなげることで、より大きな価値を生み出せると考えています。
そのために、私はCEOに就任してからの2年間、欧州、米国、アジア、日本など約10か国の主要拠点を訪問し、延べ1,000名を超える従業員と直接の対話、ラウンドテーブルを行ってきました。現地でのタウンホールやラウンドテーブルでの対話を通じ、一方的な発信ではなく、経営層が発信する方針が現場にどこまで届いているのか、又齟齬が出ていないかを確かめるとともに、本社からは見えにくい現場の課題や、従業員一人ひとりの思いを吸い上げるためです。経営の目線と現場の肌感覚を双方向に可視化することが、対話の大きな目的です。
会社が向かう方向、それが自分にとってどのような意義を持つのか。そして、自分が担う仕事がどう貢献できるのか。従業員一人ひとりが腹落ちしたとき、当社グループの約9,000名の人財の力は事業の大きな推進力になります。2024年、2025年は、そのための土台づくりに取り組んできた2年間でもあります。
また、主要な製造拠点を自分の目で見ることも重視してきました。北米、日本、インドネシア、中国などの主要工場を訪問し、実際にモノづくりの現場に触れ、実感したのは、PHCグループが持つ技術力です。同時に、そこで培われた技術をどのように日本から世界へ展開していくかを考える上でも、大きな学びがありました。
当社グループの全従業員向けに、毎月実施している「グローバル・タウンホールミーティング」では、グループ全体の最新の動きに加え、当社グループの価値観に基づく実践事例や、事業の垣根を超えたシナジー事例を毎回共有しています。「One PHC」を理念として語るだけでは、組織は変わりません。日々現場で起きる様々な変化や成果を可視化し、他の事業や地域に広げていくことが、機動力の高い組織文化の醸成には不可欠だと考えていたからです。
例えば日本では、近接する営業拠点の集約化により、現在のライフサイエンス事業を構成する旧診断薬事業と旧バイオメディカ事業間の情報連携が進み、クロスセルなどの具体的な成果や展示会への共同出展につながりました。
この取り組みを「グローバル・タウンホールミーティング」で紹介したことをきっかけに、海外拠点で同様の取り組みに対する機運が高まりました。英国では病理事業と旧バイオメディカ事業(現:ライフサイエンス事業)のメンバーが自発的に合同チームを立ち上げ、新たな収益を生み出しています。
このように事例の可視化や共有を頻繁に行うことで、他の事業部の中でも「シナジーの創出には、まず従業員の意識付けが肝要」「着手できる案件は幾らでもある」という認識が広がっていきました。「個社の最適化」から、「グループ全体で価値を生み出す」方向へ。そうした波及効果が見え始めたことは、2025年度の大事な一歩だったと考えています。
このような変化は一度の発信で起きるものではありません。簡潔、かつ納得性のあるメッセージを、繰り返し伝え続けることが重要だと思っています。2024年は、自分が一人で旗を振っているように感じる場面もありましたが、広報や人事をはじめとするメンバーが伴走し、発信を支え続けてくれたことで、2025年には各事業・各拠点のメンバーそれぞれが自ら動き始めました。この変化に大きな手応えを感じています。
2. 従業員の声を、組織の変化に生かす
毎年実施しているエンゲージメントサーベイにも、2025年度は約9,300名が参加し、86,000件を超えるコメントが寄せられました。これほど多くの声が集まった事実は、PHCグループをより良くしたいという従業員の強い意志の表れだと思っております。
この数年、当社グループでは事業統合や組織再編が続き、上司や同僚との信頼関係構築において難しい局面もありました。しかし、人事部門を中心に各現場で地道な対話や研修を積み重ねてきた結果、上司・同僚間のコミュニケーションには着実な改善が見られています。一方で、経営層との対話や個人のキャリアパス形成、サーベイ結果に基づく改善アクションの可視化等は、依然として重要な経営課題であると認識しています。
エンゲージメント向上に向けた取り組みは、サーベイのスコアを上げるための活動ではありません。従業員が自らの仕事に誇りとやりがいを感じ、会社の志に共感しながら、主体的に能力を発揮できる土壌を築くことにあります。こうした人的資本への投資こそが、持続的な業績向上と企業価値の向上に繋がるものと考えています。
3. 「中期経営計画2027」初年度の進捗と成長基盤の強化
「中期経営計画2027」の初年度である2025年度は、強固な経営の基盤構築に向けた重要な1年でした。 2025年度の売上収益は3,644億円、営業利益は227億円に達し、いずれも前年を上回り上場以来の最高値を更新いたしました。為替の好影響はありましたが、営業利益は期中に上方修正した業績予想を更に上回る着地となりました。中計初年度において、ステークホルダーの皆さまへの公約を着実に実行できたことは、将来の成長に向けた重要な一歩です。「掲げた目標に対し、着実に実行し、成果につなげる」これこそが経営者として果たすべき責務だと考えています。
本中期経営計画では、2027年度までの3年間で取り組むべき優先事項を以下の三点に集約しています。
- 収益基盤強化のための構造改革
- ポートフォリオ管理強化
- 診断・ライフサイエンス領域への注力
構造改革では、2027年度までに80~120億円の利益改善を目指す中、2025年度は31億円の効果を創出し、計画を順調に遂行しています。施策は、営業所や倉庫の集約、組織の一体化、グローバル調達の推進など、多岐にわたります。調達活動では、個社単位での個別最適からグループ全体の共同調達へ視点を広げ、開発の初期段階から調達部門が参画することで、性能とコスト競争力を両立させる動きも出てきました。
ポートフォリオ管理強化では、ROICと成長性の2軸で事業を見直し、経営資源の最適配分を行うことで、持続的な企業価値向上を目指しています。
2025年度はROICの算出・管理手法の整備を進め、2026年度からは、事業単位でのモニタリングを強化しています。その取り組みの一環として2025年度には、持続血糖測定(CGM)システム「Eversense®」の販売事業を譲渡しました。「Eversense®」は高い成長の可能性を有する製品であり、当社グループとしても継続的な投資を行ってきました。しかしながら、将来的に必要となる投資規模や期待されるリターンを慎重に見極めるとともに、グループ全体として重点的に取り組むべき領域との整合性を総合的に判断した結果、事業譲渡を決定しました。
イノベーションへの挑戦や将来への夢を持ち続けることは企業成長の原動力です。一方で、限られた経営資源をどの領域に投入することがグループ全体の持続的な成長につながるのかを見極めることも、経営の重要な責務です。本件は、ポートフォリオ管理強化の方針に基づく具体的な施策であり、資本効率と成長性を両立させる経営への転換を象徴する取り組みであると考えています。
成長に向けた取り組みとしては、2026年4月にはグループの成長を支える中核技術の創出を担う「コアテクノロジー研究所」を設立しました。当社グループには、コア技術であるセンシング、流体制御、検体処理・保存・培養、デジタル化などの高度な技術があります。同研究所を起点に、診断・ライフサイエンス領域を中心とした次世代技術の開発を推進し、新たな成長機会の創出と中長期的な企業価値向上につなげていきます。
バイオメディカ事業(現:ライフサイエンス事業)は、超低温フリーザーやCO2インキュベーターなど、長年にわたり研究・医療現場から高い信頼を獲得してきた製品群を有しています。一方で、これらの製品は耐用年数が長く、更新需要のサイクルも比較的長期にわたることから、将来の成長を支える新たな事業基盤の構築が重要な課題となっています。このため、今後は消耗品やサービスなどのリカーリングビジネスの拡大を進めるとともに、細胞・遺伝子治療(CGT)領域やデジタルパソロジーなど、高い成長が期待される分野への展開を加速していきます。それには、事業ごとの技術や知見を繋ぎ、グループ全体で技術開発を推進する体制が欠かせません。「コアテクノロジー研究所」の設立は成長分野への投資の一環です。この「コアテクノロジー研究所」を中心に、次の成長につながる技術開発を進めていきます。
4. 危機対応の中で見えた、「One PHC」の力
2025年度は、事業環境の不確実性が一段と高まった1年でもありました。米国市場では政府による研究関連補助金の削減を背景に研究需要が低迷したほか、米国における関税政策の影響により、当社グループにも大きな影響を及ぼす可能性がありました。特に関税への対応は、収益への影響を最小限に抑えるため、生産体制そのものの見直しが求められる重要な経営課題でした。しかし、生産拠点間で製造品目を移管することは容易ではありません。設備、人財、品質保証、薬事対応、物流、サプライチェーンなど、多様な要件を同時に満たしながら、最適な生産体制を構築する必要があるためです。
こうした状況の中で、グローバルの製造拠点や各事業部のリーダーが主体的に行動を起こしました。どの拠点に生産余力があるのか、どの製品で生産移管が可能か、またキャパシティや人件費、輸送コスト、サプライチェーン上の制約を踏まえながら、グループ横断で最適な対応策を検討しました。その結果、数か月という短期間で生産体制の再構築を実現し、環境変化への迅速な対応につなげることができました。
具体的には、中国から米国へ、英国からインドネシアへと生産の一部を移管するとともに、中国市場向け製品については現地生産化を進め、市場の要請への対応にも取り組みました。これらの施策は、各拠点と事業部が連携し、「どうすれば実現できるか」という視点で課題解決に取り組んだ結果であり、品質保証や薬事申請対応なども含めて、スピード感を持って実行されました。
私は、この一連の取り組みに当社グループが掲げる「One PHC」の真価を見ています。特定の事業が外部環境の影響を受けた際に、グループ全体で知恵とリソースを結集し、最適な解決策を導き出す。個別最適ではなく全体最適の視点で行動し、限られた経営資源をグループ全体の成長に向けて活用する姿勢が、着実に組織文化として根付いてきたことを実感しています。
危機そのものは望ましいものではありません。しかし、予測困難な環境変化に直面した時こそ、組織の真の力が試されます。関税対応は、当社グループにとって非常に厳しい経験でしたが、今回の経験を通じて、各事業部が外部環境の変化を敏感に察知し、自律的に先を読み、互いに補完しながら行動するマインドセットが培われました。2025年度は、その力、「One PHC」の力を改めて確認できた1年でもありました。
5. 精緻な技術を、次の成長につなげるために
当社グループの競争力の源泉は、長い歴史の中で培ってきた「精緻な技術」にあります。松下寿電子工業時代から受け継がれてきたモノづくりの力を基盤に、血糖センサ技術をはじめとする高精度な測定技術、ライフサイエンス機器、診断機器、さらには医療DXを支えるソフトウェアやサービスなど多様な技術・ノウハウを蓄積してきました。これらは、当社グループが持続的な成長を実現するうえでの重要な資産であり、他社との差別化を支える強みです。
その象徴的な成果の一つが、2024年に上市したライブセル代謝分析装置「LiCellMo™」です。「LiCellMo™」は、旧診断薬事業が持つセンサ技術と、旧バイオメディカ事業の機器開発の知見を融合することで生まれた製品です。細胞の代謝をリアルタイムで測定できることを特徴としており、従来の定点測定では捉えきれなかった細胞の変化を、CO2インキュベーターから取り出すことなく連続的に把握できます。サンプルの出し入れに伴うコンタミネーション(異物や雑菌の混入)リスクも低減し研究開発の効率化と品質向上に寄与します。
こうした技術シナジーから生まれたイノベーションは、2025年度において国際的な評価を獲得するなど、当社グループの技術力を示す成果となりました。
PHCグループにはまだ十分に活用しきれていない技術や知見が数多くあると感じています。
今後は、それらの技術資産を発掘し、事業や地域を越えて繋ぎ、新たな製品やサービスの創出に結び付けていくことが、次の成長に繋がると考えています。
当社グループは、複数の事業領域において高い市場ポジションを築いています。国内のヘルスケアITソリューション事業では、クリニック向け電子カルテシステム、クリニック・病院用レセプトコンピュータはシェア第1位※1、ライフサイエンス事業では、超低温フリーザーなどでグローバル第2位※2の市場シェアを有しています。
私たちの製品・サービスの品質がお客さまから評価をいただいた証であり、今後さらに「この領域にPHCグループあり」と言われるための基盤でもあります。
更に、「LiCellMo™」や、デジタル病理ソリューション、ヘルスケアITソリューション事業のコールセンターなど、当社グループの製品・サービスは、さまざまな分野で外部から高い評価をいただいており、数々の受賞歴があります。こうした受賞は、私たちの技術やサービスが世界で通用することの証左です。こうした評価を励みに、事業や地域を越えて技術や知見を繋ぎ、より大きな価値の創出へと結び付けていきます。
- ※1【出典】 株式会社富士経済「2022年 医療連携・医療プラットフォーム関連市場の現状と将来展望」より
2020年企業シェア・数量ベース レセプトコンピュータ(PHC実績)
- ※2【出典】 “Global Assessment of Life Science Lab Equipment Market 2025, Frost & Sullivan”
6. サステナビリティへの取り組みを、企業価値と成長機会の推進力に
2025年度は、サステナビリティへの取り組みも着実に進めました。ノンフロンの超低温フリーザーや、電力・水の使用を抑える製品群は、環境負荷の低減に貢献する主力商品群です。当社グループはサステナビリティへの取り組みを、持続的な成長を支える経営基盤と位置付け、事業と一体となって進めています。 2024年度に整備したESGデータ収集基盤及びグループ横断の取り組みにより、2025年度はSBT認証を計画どおり取得しました。また、EcoVadis及びCDP評価では、「中期経営計画2027」の2027年度目標水準を2年前倒しで達成することができました。こうした取り組みは外部からの評価向上にとどまらず、入札・受注機会の拡大にもつながっています。さらに、ノンフロン超低温フリーザーや省電力・節水性能に優れた製品群は、お客さまの環境負荷低減に貢献するとともに、当社グループの競争力向上にも寄与しています。
7. 高齢化、医療人財不足、AI時代にPHCグループが果たす役割
私たちを取り巻く事業環境は、大きな変化の局面を迎えています。世界的な高齢化の進展と長寿化に伴い、糖尿病をはじめとする生活習慣病、がん、循環器疾患、認知症などの患者数は増加し、医療ニーズは今後さらに拡大していくことが見込まれます。一方で、生産年齢人口の減少により医療従事者の不足は深刻化しており、限られた医療資源の中で質の高い医療を持続的に提供することが、社会全体の重要な課題となっています。
こうした課題は病理領域においても顕在化しています。病理医不足や長時間労働が深刻な課題となる中、診断業務の効率化と品質向上を両立するワークフローの高度化が求められています。診断に関わる業務の負担を軽減しながら、より迅速かつ高精度な診断を実現することは、医療従事者の働き方改革のみならず、患者さんへのより良い医療の提供にも直結します。
当社グループは、これらの社会課題に対し、機器、ソフトウェア、デジタル技術、AI、データを融合したソリューションの提供を通じて、持続可能な医療・ヘルスケアの実現に貢献していきます。医療・ヘルスケアの現場における多様な接点と、長年培ってきた精緻な技術基盤を活かし、医療従事者の業務効率化や負担軽減、人的ミスの低減を支援することで、診断・治療の質向上に取り組んでいます。
今後も、限られた医療人財の中でも、必要な医療を必要とする人へ届けられる環境づくりを支えるとともに、医療の質とアクセスの向上、医療コストの適正化を実現し、社会課題の解決と企業価値の向上を両立する持続的な価値創造を推進していきます。
8. 世界の中で「この領域にPHCグループあり」と言われる会社へ
私たちは、ヘルスケア領域において「この領域にPHCグループあり」と世界中のお客さまから認識される企業を目指しています。超低温フリーザーやクリニック向け電子カルテをはじめ、当社グループの製品群はお客さまから高い評価と信頼をいただいています。しかし、私たちは現状に満足しているわけではありません。長年培ってきた技術力や専門性、そしてグローバルに展開する事業基盤には、まだ十分に社会へ届けられていない価値や可能性が数多く存在すると考えています。
今後は、それぞれの事業や地域で培われてきた強みを結び付け、技術や知見の融合を進め、新たな価値創造を加速していきます。
医療・ヘルスケア分野において、「この領域にPHCグループあり」と言われる存在を目指し、挑戦と変革を続ける当社グループにぜひご期待ください。